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読んだきっかけと感想
2021年に刊行されたビル・ゲイツの新著。温室効果ガスによる地球温暖化理論にやや懐疑的な考えであったが、昨今の潮流を体系的に学ぶべく手にとった一冊。ビルゲイツは財団を通じて気候変動に関連する多くのテクノロジーを支援していることで知られる。彼の知見を確りと学ぶことは、これからのビジネスに大きく役立つと感じている。
ビルは従来より個人のファンドを通じて途上国支援などを行ってきたが、同時に感染症、環境問題に多くの関心を払ってきた事で知られる。本著では、気候変動を防ぐにはGHG排出量の「ネットゼロ化」が必要不可欠であるというのが1番のメッセージである。
Introduction; 51Billion to zero
全産業でのGHGネットゼロ化が不可欠
世界中で毎年排出されているGHG 51billion tonのうち、27%が電力由来と言われている。太陽光や風力などの従来のテクノロジーで電力でのGHG排出をゼロに持っていくことはもちろん、残り73%は電力以外の産業で排出されていることを考慮すると、全産業で同時並行的に脱炭素化を図ることが不可欠であるというのが氏の主張だ。
- 気候変動を止めるにはGHG排出量をゼロにする必要がある
- 既にあるテクノロジー(太陽光、風力)をより早く、スマートに展開する必要がある
- 新しい技術革新も同時に必要
再エネの経済優位性の確保
電力の関連では、途上国含め全ての国で化石燃料由来の電力ではなく、クリーンエネルギー由来の電力がコスト競争力を有することが重要と主張。例としてインドをあげていたものの、日本の様に太陽光や風力の資源に乏しく、再エネ価格の高い先進国のことはどの様に考えているのだろうか?
COP21での機運
2015年に開催されたCOP21を機にGatesの活動はさらに加速していく。当時Green Tech関連の銘柄はリターンが低く、有力VCはITやバイオ系の投資に躍起で、軒並みGreen Techへの投資には慎重だった。
GatesはCOP21の開催前に、有力資産家宛にGreen Techへの長期的な投資を要請、最終的には26の投資家が参画する「Breakthrough Energy」を立ち上げた。また、COP25ではインドのModi首相やオバマ大統領が核となり政府間国際イニシアティブの「Mission Innovation(MI)」を設立。MIでは主に研究フェーズの技術を支援、その後の商業化フェーズではBreakthrough Energyが担う官民連携の組織体制が構築された。
COVID-19の影響
Gateはかねてより世界的流行病を警鐘を鳴らしていたものの、2020年にはCOVID-19が大流行した。Gates財団はコロナ関連でUS$550Mil近い額をワクチン開発などへの投資に拠出している。
2020年は経済活動の落ち込みにより例年比▲5%程度のGHG削減に留まる見込みである。これだけ経済活動が停滞しても5%なのだから、GHGネットゼロに向けては相当なイノベーションが必要であることが分かる。
Gates個人の取り組み
Gatesは言わずと知れた資産家であり、プライベートジェットも保有するなど個人としてのGHG排出量は一般の人に比べて極めて高いことを自認している。彼は2021年にはDirect Air Capture(大気中のCO2を回収する技術)の企業からカーボンクレジットを購入、GHG排出をネットゼロとしたいとしている。
Chapter1; Why Zero?
GHGネットゼロを目指す理由は気候変動を少しでも食い止めるためである。GHGは夏場に放置された車の車内の様に太陽光を封じ込める働きがある上、一度大気中に放出されると1万年は存在するため、長期間にわたり地球の気温へ影響すると言える。
地球は少しの気温の変化で大きな環境の変化をもたらす。前回の氷河期の平均気温は現在からたった6度低いだけと考えると、1度の意味の大きさを改めて実感できる。2度の気温上昇が全人口の20%~40%の居住地域に深刻な影響をもたらすとのスタディもある。
現在のコンピュータを以ってしてもGHGと気温上昇を関連づけた上でシミュレーションするのは不確定要素が多すぎる故、難易度が高いものの、一般的には2050年ごろには+1.5~3度、2100年には+4~8度の平均気温上昇が見込まれている。
気温上昇の一番の影響は自然災害だ。現に米国では30年前に比べて気温が上昇した結果、ハリケーンの上陸や森林火災も多発している。特にハリケーンなどの災害は復旧に多くの経済損失を伴う。その他、海水面の上昇や、動植物絶滅の影響など、自然界が特に影響を受けることになる。その結果私たちを襲うのは発展途上国を中心とした居住地喪失のほか、とうもろこしなどの穀物を皮切りとした食糧難である。
こうした観点から、気候変動の基となるGHG排出を抑えると同時に、干ばつや洪水に強い作物の開発など気温上昇への適応を先進国を中心に研究開発していく必要がある。
Chapter2; This will be hard
現在化石燃料は日常に不可欠である上、今後多くの国でさらに経済が発展し、人口が増えることを考慮するといかにGHG削減が難しいことかがわかる。言い換えると、途上国発展のためにエネルギー総供給量は引き上げつつもGHGを削減するというのがターゲットとなる。
人々が化石燃料を手に入れたのは1890sと比較的近代であるが、エネルギーソースの普及にはかなり多くの期間を要することも頭に入れておきたい。以下が石炭、石油、天然ガスの普及スピードを表したグラフである。
また、エネルギーはムーアの法則の様に加速度的に技術進化がない上、プラント建設にかかる資本コストが莫大であることも移行が進まない理由であるとしている。
Chapter3; Five Questions to ask in every climate conversation
- その排出量は51Biliionのうち何%に当たるかを常に考える
- 自動車や飛行機だけでなく、セメントや製鉄など排出割合の大きい分野について考える
- 電力消費量の前提を考える
- 電力消費量の前提を考える(発電の非連続性や都市の人口等)
- Power density(発電密度/容積あたりの発電量)を考慮する
- 再エネへの移行コストを考慮する(化石燃料にまだ経済性があることを認識する)→グリーンプレミアムを導入する場合でも、中間所得層が支払える額かどうかを考慮する
Chapter4; How we plug in
水力発電のデメリット
水力発電はそれ自体はクリーンであるものの、貯水池造成時に地中の炭素がメタンとなって大気中に放出される点が欠点である。また、降雨状況によって発電量にばらつきがでる点もデメリットである。
また、太陽光や風力の建設には多くのセメントや鉄が使われるが、原子炉では発電量あたりの建設材料が少なく、効率的安全に操業可能。その他、洋上風力発電や地熱発電も有力候補となりうる。
発電に係るグリーンプレミアム
アメリカでグリーンプレミアムを導入しようとすると、電力代はUS$18、約15%上昇する試算。欧州でも20%程度の増加で治るが、風力や太陽光資源に乏しいアジア、アフリカでの大型需要に応えることが課題となる(中国での火力発電比率は75%に及ぶ)。
夜間の需要に向けたバッテリーでの電力貯蔵分野で改善が図れたら、グリーンプレミアムはさらに下げることができるが、例えば東京の3日分の電力需要を賄うバッテリーを配備した場合、US$400Billionの初期費用とUS$27Billionの年間費用がかかる試算となり、とても現実的な選択肢とはなり得ない。
電力の貯蔵
電力の貯蔵にリチウムバッテリーを用いることは高価な上、大きな技術革新が見込めないため都市レベルのグリッドにはなり得ない。また、電力が安い地域では揚水発電(電力を水の位置エネルギーに変換)や地熱発電(エコキュートなど)があるほか、都市レベルの解決策としては水素での貯蔵が考えられる。